キツネをめぐる冒険

英語圏で SHINee を追いかける和訳アーカイブ

K-POP の境界を押し広げるシンガー、テミン 『Another Man』171107

アルバム発売。ちょうど一年前の英文ロングインタビュー記事(ロンドン発)です。
 

K-POP の境界を押し広げるシンガー、テミン

SHINee のシャイなメンバーから自信に満ち溢れたソロ・アーティストへ。この24歳の韓国人青年は恐れることなく道を切り拓いている。

テイラー・グラスビー
『Another Man』11/07/2017

https://anothermanimg-dazedgroup.netdna-ssl.com/533/azure/anotherman-prod/360/8/368038.jpg


イ・テミンーー伝説的な K-POP グループ SHINee のメンバーであり、ソロとしても成功したアーティストーーの二面性は、ファンのあいだではよく知られている。マイケル・ジャクソンの影響を大きく受けたテミンのパフォーマンスは、見る者に強烈な、激しく感情をゆさぶられる経験をもたらす。クセになるエレクトロ・ポップを誘うような息遣いの声で歌ったかと思えば(Drip Drop)映画的な楽器とヴォーカルを巧みに使いながら、モダン・ダンサーとしての卓越した技術をショーケースしたりもする(Flame of Love)。だが、ステージをひとたび降りれば、この24歳は浮わついたところなどひとつもない、優しくてシャイなくらいの好青年でもある。もう十年近く彼が世界的なスターであることを考えあわせれば、その人柄の尊さは増すばかりだ。

だが、テミン本人は自分のパブリック・イメージをもっとずっと多面的なものだと長年考えてきた。「自分にはたくさんの異なる面があると感じていますし、もっともっとお見せしたいものがあるんです。新作をリリースするたびに新しい別のこと、他の人にはできないことに挑戦するのはそういう理由からです。ぼくのアルバムは全部、人生のその時点における、ぼくの姿です。そして、MOVE は今のぼくそのものを表しているといえると思います」

盤石なファンダムをもつキャリアの長いアーティストであるからこそ、テミンは自由に実験できる幸運にめぐまれている。そして、MOVE――セカンド・ソロ・アルバムにして、張りつめたシンセとベースのきいた同名シングル――でも、テミンは実験をさらに突き進めている。シングル MOVE については3本のMV動画(メインカット、女性ダンサーたちとのアンサンブル版、デュオ版)をリリースしているが、そのどれもが、男女がはっきりと二分された K-POPジェンダー[性差]の境界を視覚的に押し広げるものだ。男性/女性中心の “ムーブ” を組み合わせることで、テミンは男女を分かつ線をぼやけさせ、ジェンダーそのものを度外視するような、ひとつのしなやかで強烈に官能的なパフォーマンスへと結実させる。彼自身、これまで踊ってきたよりもタイトで原初的な振り付けに挑戦していることはいうまでもない。

この画期的な K-POP 規範からの逸脱の背後にいるのは、有力な日本人振付家、菅原小春だ。これまでもテミンのソロ作品やダンスTV番組『Hit The Stage』でともに活動してきたふたりの恐ろしいほどの存在感は、MOVE のデュオ版MVで目にすることができる。「ダンスは小春さんの感情から流れ出てくるんです。彼女を見ていると、振り付けの素晴らしさがどうというよりも、その瞬間瞬間に彼女が何を感じているか、一瞬で理解できてしまう」とテミンは言う。


「小春さんは振り付けをこうしなさいと教えないで、代わりにそれがどんなものかを言葉でぼくに伝えるんです。MOVE で腰を揺らすところについても長い説明をしてくれて、『テミンのまわりに女の子がいっぱいいるところを想像したの。それで、ここを踊るときは “男はぼくだけだ、ぼくが一番だ” って考えてやってほしい。ほかのヤツらとはぜんぜん違うんだって感じで』と。ぼくには小春さんが表現したかったことがよくわかったんですね。それはただ振りを習うだけじゃ伝わらないことです。小春さんは素晴らしい友人で、ぼくも彼女みたいに深い感情を表現できるようなアーティストになりたいって思わせてくれる人ですね」

テミンは自分の作品について確信をもってはっきり語るし、まわりの人たちにしっかり支えられているのも事実だが、だからといって MOVE で作り上げたものがやすやすと生まれてきたわけではない。「新しいものに挑戦することについては、もちろん心配がありました」と本人も認めている。「もっと安全な道を選んで、K-POP で流行ってる音楽をやってもよかったけど、K-POP の音楽的な幅を拡げたかったんですよね。ほかの人とは違っていて、ぼくの独自性をもっと引き出せるものを創るためにも」

みずからも認めているようにSHINee 初期作品では歌わせてもらえなかったほどヴォーカリストとしては苦労した十代の少年から、自信に溢れ、尊敬されるオールラウンドなアーティストへ変貌したテミンの成長は、もはや誰もが知っている公共財産のように感じられることも多い。だが、数々の賞やレコード・セールス記録、世界ツアー、数えきれないインタビューといった、きらびやかな達成のかげで、テミンは自分は何者なのかをもっと深く打ち出そうと試み、野心と混乱という、だれもが経験する問題にも直面してきた。


「16歳とか17歳のときは、20歳になるまでにはパーフェクトな力を兼ね備えたアーティストにきっとなるんだって夢見ていました」。テミンは若いころ抱いていた期待について教えてくれた。「でも、大人になったからってそれだけで完全に新しい人間に生まれ変わるわけじゃないってことが分かったんですよね。それに、ふと気づいたらもう20歳になってしまっていて、そのときになってもまだ、もっと良いアーティストになりたいと思っていました」 影響力のあるポップスターとして成功した今でも、プライベートな時間にはそのパブリック・イメージの進化について考えることが多いという。「寝る前に、どうしたら自分がアーティストとしてもっと認めてもらえるか、いつも考えるんです。素晴らしいアーティストとして、という意味ですが。どうしたらもっとぼくの音楽や、ぼくがどんなアーティストなのかをみなさんに知っていただけるんだろう、と考えます。最近はそういう考えで頭がいっぱいです」

テミン本人はすでに次のステップについて考え始めているかもしれないが、いまこの瞬間、あなたがとにかく聞かなくてはならないのは MOVE だ。このアルバムは前作ファースト・ソロ・アルバム Press It から始まったアイディアやスタイル、感情をさらに強化した、驚異的なほど文句のつけようのない作品といえる。前作の Drip Drip のあとを継ぐ Crazy 4 U はテミン本人も「レコーディングがいちばん難しかった曲」というほど複雑なリズムを備えている。アコースティックな Back To You はなにもしなくともすっと目立ってしまうような名曲で、胸の張り裂けるようなヴォーカル――テミンいわく「ありとあらゆる悲しい記憶や思い」を総動員した結果――が印象的だ。「20代半ばになって、歌い方とか歌詞の表現という意味では成熟したと思います。レコーディングのあいだはどうしたら深い感情を伝えられるか常に考えていましたが、この曲はとくにトーンという点で、その成熟をよく表していると思います」

MOVE には初めての女性とのデュエット曲、Red Velvet のスルギとの軽やかなやりとりが魅力の Heart Stop も収録されている。「練習生時代からのつきあいなんですが、声が本当に素敵で、いつかこんなふうに仕事をしたいと思っていたんです」 一方、RiseLove はスケール感のある、溢れる感情を巧みに表現した楽曲。忍び寄るようなトラップ・スネアと脈打つベース、挑発的な歌詞の Thirsty は、欲望と成熟のステートメントだ。


十年もエンターテイメント界にいれば消耗してしまうアーティストもいるだろうが、テミンは常に創作への意欲を失わない。「何からでもインスピレーションをもらいます。アートでも、ファッションでも、本でも。芸術は五感から来るものだと心から信じているんです」 口調には熱がこもっている。「視覚、聴覚、触覚、味覚、それに嗅覚をちゃんと感じることが大事です。でも、もしひとつ、ということなら、ぼくは視覚からインスピレーションを一番受けると思います。風景とか背景、文化的なシンボルとか。あ、それから最近は自分の想像力からもヒントを得ますね。たとえば、建物のインテリアを見たときに、ぼくだったら全体的な見た目とか感覚をどうデザインするだろうって想像してみるんです。それに、洋服からもインスピレーションを受けることがあります。その日の気持ちが着る服に反映されることってあるじゃないですか。だから、このひとはなんでこの服を選んだのかな、どんな気持ちだったのかなって考えるんです」

テミンは発見したことをメモして記録することが多い。「ただぜんぶ吸収して感じて、そのあとそれが何だったか忘れちゃうこともあります」とも言う。「『忘れる』と言ったのは、本当に忘れてしまうことではないんです。感じたことが消えてなくなるわけではなくて、そこから感情が徐々に積み重なっていって、ある日、ある状況を想像したときに、その積み重なってきた感情がわっと蘇ってくるんです」

多くの K-POP アーティストと同じように、テミンはグループで演じるときにはいくつものヴィジュアル・コンセプトを次々に体現してきたが、ソロ作でのコンセプトはより継続的なものでありつつ、同時に、制約が少ないものになっている。「MOVE はただのコンセプトじゃないと信じてるんです。アルバム自体が簡単に定義できないものになってると思う。そこには目に映るもの以上のものがあると思いますし、そのコンセプト自体にもさまざまに異なる要素が含まれているので。ただ、アルバムには一貫性をもたせたいと思っていて、そこに人格なり、ぼくの音楽がもつムードなりをまとめられるコンセプトがあるということですね」テミンの口ぶりには確信がある。「それが K-POP の王道とは違った、自分だけのユニークなアイデンティティを作ろうとぼくが頑張っている理由でもあります。これからも自分の音楽を表現するさまざまな方法を模索して、挑戦を続けていきます」


動画版インタビュー(日本語訳はこちら


元記事:

www.anothermanmag.com
※『Another Man』は英国ロンドンの男性ファッション/カルチャー誌です。


 

+++++++++++++以上++++++++++

 

日本語でのソロ・アルバム発売を祝して、一年前のテミンのインタビュー記事を訳してみました。たっぷり長いし、すごい絶賛されてる。しかもこの記事、テミンの性格の良さまでフォローしてくれててホント愛しかない。ロンドンにもテミンを愛する人が(号泣

個人的なことで恐縮なんですが、わたしが SHINee 沼にどっぷり落ちた決定的なきっかけはテミンのダンス姿でした。わたし、子どものころからマイケル・ジャクソンが大好きで、マイケルの匂いがしたら、それだけで許しちゃうくらい弱いんですが、SHINee はデビュー作からし仲宗根梨乃さんの振り付けですし(たとえば ♫あ、あ、あ、君はこんなにー♫ の首振りムーヴはMJリスペクトでOK?)もともとMJ色が強いですよね。なかでもテミンは本人も認めるMJフォロワーで、身のこなしが似ているだけでなく、男女の別を超越するばかりか、しばしば人間界を飛び出して妖精としか思えなくなってしまわれる部分も含めて、次世代マイケルとして完璧なんです ←という無駄な力説。

でもでもMJも5人グループの末っ子だったし。変声期は大変だったらしいし。

f:id:littleprincesfox:20181115075442g:plain

f:id:littleprincesfox:20181115075549g:plain

そのテミンがソロ作で菅原小春さんとコラボしてるのもいちいち胸がアツいんですが、そのコラボが2018年時点ではとうとう SHINee 本体(데리러 가 Good Evening)まで波及してアイドルの枠をはみ出すパフォーマンスを展開してたのも実はすごいことなんじゃないかとひそかに思っています。あれ、現代ダンスに限りなく近かったですよね。しかもあのタイミングでやる……。なんていう人たちなんだ。

参考 SHINee「Good Evening」振付は“余白”がポイント? 感情のうねりを表現する菅原小春の手法 - Real Sound|リアルサウンド

 

と同時に、この英文記事が指摘してくれてる K-POP のなかのジェンダー縛りの強さについてもあらためていろいろ考えさせられました。個人的な印象にすぎませんが、英語圏でコリアン系の友達を見ていても、正直、韓国文化そのものがわりと男女の性差を強調する文化なのかなぁと感じる部分はあるんです。エンタメ界でもやっぱり男は男らしく、女は女らしくというコードが強いのかな。

いや、今日この記事を読み返しながら、男女縛りの強い世界で、そのラインを突破してしまいがちなテミンとキー姫がいる SHINee ってやっぱり得がたいグループなんじゃないかなとあらためて思ったわけです(分かる人に伝われ〜!)。ふたりとも「男の子」ですけど、グワッと危険なくらい揺らぐ瞬間があって。この記事ではそれをちゃんと言語化してくれてたのがありがたかった。あと音楽的にもテミンが K-POP 王道をあえて外してきてるっていうのがはっきり分かって「おぉ」と思いました。ま、最終的にはわたしたちのかわいいかっこいいテミンがめちゃくちゃ褒められてて嬉しかった、それだけなのですが。

結論:テミン尊い。テミン愛しい。テミン最高。わたしのスター! 君に永く健やかな人生があらんことを!

Taemin

Taemin

  • TAEMIN
  • J-Pop
  •  

 

※ダンスバトル番組Hit The Stage 20160803 菅原小春さんとのコラボ
何度見てもすばらしすぎるので貼っておきます。

www.youtube.com番組全体も。

HIT THE STAGE -Taemin SHINee cut part 1/3 (engsub) - YouTube

HIT THE STAGE - Taemin SHINee cut part 2/3 (engsub) - YouTube

HIT THE STAGE - Taemin SHINee cut part 3/3 (engsub) - YouTube

小春さんの豪快な性格が愛しい(舞台上でもかまわず日本語で喋りまくり、優勝したとき唯一言った韓国語がトッポギ、チョア!っていう自由さ)。そしてテミンを「ダンサー殺し」って言ってるのがいいですよね。誇り高きダンスのプロより上手いアーティスト、テミン。そのテミンが小春さんのためにステージ上で献身的にずっと通訳してるのも愛しかった。ええ子……

 

 

 

littleprincesfox.hatenablog.com

 

💎和訳記事インデックス