批評家が選ぶジョンヒョンのベストソング15 『ビルボードUSA』171220
実は『ビルボード』にはジョンヒョン関連記事がいくつもあります。気持ち的につらくていままで訳してこなかったのですが、ジョンくんの名誉のためにも少しずつ訳していけたらと思っています。今日はなかでもライターさんが力を込めて書いてることがわかる、ジョンヒョン名曲選を。
批評家が選ぶジョンヒョンのベストソング15
テイマー・ハーマン『ビルボードUSA(K-Town)』12/20/2017
韓国のボーイバンド SHINee のジョンヒョン。SMエンターテインメントのThe Ballad Vol.2 Joint Recital(韓国ソウル、2014年2月12日)公演にて。
SHINee のキム・ジョンヒョンが急逝したあと、K-POP 界は数日前と比べてほんの少し輝きを失ったように感じられる。韓国ボーイバンドのリードボーカリストは12月18日月曜日この世を去ったが、あとに妥協のないたしかな音楽で満たされた遺産を残してくれた。
ジョンヒョンは、あらゆるものがお上品さという綿でくるまれた業界にいながら、率直に語ることを好んだシンガーソングライターだった。そして、SHINee や他アーティストとのコラボレーション、ソロ作品を通じて、彼にしか出せない表現力あふれる声色や音楽スタイルを示し、その名を知られた。
ジョンヒョンは逝去に先立ち、2018年初頭にリリースされるはずの新作に取り組んでいた。この音源の運命はまだ明らかになっていないが、わたしたちの手元にはすでに素晴らしい楽曲が数多く残されている。ここに挙げるのは、ソロ作や彼の書いた曲、他アーティストとのコラボレーションなど、このシンガーを記憶すべき15の最高の瞬間だ。
15. “A Gloomy Clock” by IU feat. Jonghyun (Modern Times, 2013)
ジョンヒョンが書いた曲で SHINee 以外のアーティストがリリースした最初の曲 “Gloomy Clock [憂鬱時計]” は奇抜なミッドテンポのジャズポップチューンで、IUの軽やかな歌声にジョンヒョンの深い声が対置されている。タイトルにちなんで時計のカチコチいう音がテンポを刻み、ボサノヴァやリズミカルなギター、チリチリいう鉄琴のビートなど多様な音がメロディによりあわされていく。
[訳注:元ページ動画リンクが切れていたのでSpotifyから]
14. “So Goodbye” (City Hunter official soundtrack, 2011)
韓国のテレビ番組 City Hunter のサウンドトラックに収録されたこのアップテンポ・バラードでは、感情をほとばしらせて力強くコーラス[サビ]を歌うジョンヒョンの声に合わせ、鮮やかなストリングスが鳴りわたる。伸びやかなベルト唱法[地声で中高域を響かせる歌い方]とオーケストラ演奏がふんだんに盛り込まれており、ソロ・アーティスト、ジョンヒョンの作品のなかではもっともストレートなポップソングのひとつだ。
13. “Lonely” feat. Taeyeon (The Story Op.2, 2017)
生前最後のシングルとなった “Lonely” は胸がはりさけるような切ないピアノ主導のミッドテンポバラード。圧倒的な孤独感のなかでどうしようもなくなってしまう感覚を歌っている。ジョンヒョンとテヨンのリズム感のある歌声が、柔らかなフィンガースナップが刻むビートや煌めくシンセとひとつになっていく。この曲は、その内容から、ジョンヒョンの死後、韓国音楽チャートを駆けのぼり、このスターを記憶する追悼の一曲となった。
(ほかにジョンヒョンが作曲した Lee Hi の"Breathe” や、ジョンヒョンが「今日もよくがんばったね、お疲れ様」と歌う優しい曲 “End of a Day”[2015]も、ファンがこの歌手の死を悼むなか音楽チャートを上昇した。)
12. “Skelton Flower (Diphylleia grayi)” (The Story Op. 1, 2015)
“Skelton Flower 山荷葉 (Diphylleia grayi)” をざらついた声で歌うジョンヒョンは、過ぎ去る時間にともなう後悔を嘆き、とりわけ深い悔恨に包まれている。楽曲自体もその構成のおかげで、ポップアルバムより映画やミュージカルのサウンドトラックのように感じられる。反響する環境音や軽いオーケストラ演奏がこのシンガーの生々しくも美しく調和した歌唱を支え、やがて歌声が静かになっていくにしたがって、クローズアウトし、最後に無音の結末を迎える。
[訳注:↑青い夜ライブバージョン]
11. “Elevator” (The Story Op. 2, 2017)
多くの K-POP 曲の高度に様式化したプロダクションとは違い、飾り気のない “Elevator” はピアノを中心にしたバラード。ジョンヒョンはこの曲で鏡の中の自分と目を合わせられないことに思いを馳せている。やさしい弦楽器の響きが高まるとともに、アーティストは孤独と痛みについてのヴァースを響かせ、聴く者の心を揺さぶる。ジョンヒョンの最高に繊細なパフォーマンスのひとつ。*1
10. “Deja-Boo” feat. Zion T (Base, 2015)
ビルボード・ワールド・チャート首位を獲得したソロデビューEPからのシングル。この魅惑的なファンクトラックのジョンヒョンはこのうえもなくスムーズだ。韓国R&B界のクルーナー[ささやくようにやさしく歌う唱法の歌手]Zion. Tをフィーチャーしたこの溌剌としたトラックは、SHINeeメンバーの自信に満ち溢れた豊かなヴォーカルを浮き彫りにしている。
9. “Odd Eye” with SHINee (View, 2015)
ジョンヒョンの SHINee メンバーとしての代表的パフォーマンスとはいえないかもしれないが、このトラックは彼が書いたバンドの楽曲のひとつだ。ゆったりと官能的な R&B グルーヴのなかに艶めかしさをにじませる “Odd Eye” で、ジョンヒョンは5人組メンバーとハーモニーを奏でながら、ファルセットで曲の大半を牽引していく。彼の最も情熱ほとばしるパフォーマンスのひとつ。
8. “Hot Times” with S.M. the Ballad (2010)
ジョンヒョンは Super Junior のキュヒョン、The TRAXのジェイ、そしてジノとともにこのドラマティックなジャズ風R&Bポップバラードに参加し、栄光輝く作品を作り上げた。歌手ジョンヒョン最良の瞬間のひとつであり、三人のヴォーカリストとハーモニーを響かせたあと、ドラマティックな高音ベルトを爆発させてこの曲を締めくくっている。
7. “Crazy (Guilty Pleasure” feat. Iron (Base, 2015)
2015年、最初のソロEPからのシングルはジョンヒョンが SHINee におけるアイデンティティを離れてソロ・アーティストとして何ができるか探求したものであり、そこでも彼は期待を裏切らなかった。スウィングを感じるこのオルタナ R&B 曲では、重いベース、短く刻むストリングス、エフェクトのかかった鍵盤が艶めかしいサウンドを作り上げ、そのうえにヴォーカリストとラッパー Iron によるヴァースが重なっていく。
6. “Dress Up” (She Is, 2016)
スロウでグルーヴィなバラードとして始まる “Dress Up” は冒頭の問いかけ[今日はどんなドレスアップをするの?見せてよベイビー]のあと、多幸感あふれるシンセ・ポップに変貌し、そこから重たいエレクトロ・ヒップホップのビートを弾けさせる。この曲はテンポやジャンルを自在に変化させながら、打楽器のビートにシンセやデジタル音を重ねていき、滑らかなハウス風のサビのあと、ジョンヒョンが重いディストーションのかかった声で連呼する力強いダンスブレイクを挟んで、すぐに甘いヴァースの音色に戻る構成。ジョンヒョンのソロ作としては珍しいタイプの音楽だが、巧みに作り上げられたこのダンス曲は、その複雑さが病みつきになる。
5. “Hallelujah” (Base, 2015)
この楽曲がもたらす宗教的な体験はジョンヒョンの情熱的な側面を象徴するものだ。"Hallelujah” はシンプルに聞こえるメロディの流れに力を借りて、この歌手のヴォーカルを前面にはっきりと押し出している。ジョンヒョンは切り立ったビートと高音ピアノに乗せて愛について表情豊かに歌い、心を揺さぶる歌詞を柔らかく囁いたかと思うと、コーラスが重ねられたリフレインへと一気に駆け上がっていく。
4. “She Is” (She Is, 2016)
この爽やかなファンク R&B 作品はクラクラするようなシンセで幕を開けたかと思うと、キレのあるリズムに転じ、パーカッションとグルーヴィな弦楽器の生き生きとしたミックスへ展開していく。中毒性のある無表情なフック[“Oh she is” のこと]と柔らかい囁き声の“ooh” が楽曲に遊び心を加えており、とくに2度めのサビでさらにラップと組み合わされるところなど、この楽曲をジョンヒョンのもっとも精巧に作り上げられたシングルにしている。*2
3. “Heya (Y Si Fuera Ella)” (The SHINee World, 2008)
SHINee の最初の LP で、ジョンヒョンはアレハンドロ・サンズ "Y, ¿Si Fuera Ella?" (1997) の傑出したリメイクを披露している。初めてリリースしたソロ作でもあるこのパワフルなラテン風ポップ・ロック曲で、ジョンヒョンは繊細なヴァースを柔らかい声で巧みに歌いながら曲を盛り上げ、泣きのギターに乗せて爆発的なサビへと突入していく。この曲はジョンヒョンならではの音をはっきりと示した最初期の作品であり、サンズ本人からもそのユニークな音色に賛辞が送られた。
2. “White T-Shirt” (She Is, 2016)
彼自身は Story Op シリーズのジャズっぽい、センチメンタルな面を好んだが、アルバム She Is はジョンヒョンのファンキーな面を見せてくれている。その典型が “White T-Shirt” だろう。うねりながらはねるビートに、ドロップを挟んで始まるハウス風のコーラス。この事実上完璧なトラックをジョンヒョンの最高傑作と呼ぶのに足りないものがあるとすれば、それは、この曲が彼のソロ作品史のなかでも数少ない、そして She Is においては唯一の、彼自身が作曲しなかった作品だという事実だろう。歌詞を書いてはいるものの、ほかのジョンヒョンの曲にはいつもあるパーソナルな感触がこの曲にはほんの少しだけ足りないように感じられるのだ。
1. “Let Me Out” (Story Op. 2, 2017)
世の中にはシングル作品によって定義されるアーティストもいる。だが、ジョンヒョンについて言えば、このアーティストについていちばん多くを物語ってくれるのは、いつでももっと親密で、あまり知られていない音楽的瞬間のほうだ。そして、今年[2017年]4月にリリースされたこのパワフルな曲ほど内面を堂々と晒したものはないだろう。最新アルバム収録の、枯れた声で歌われるこのパワー・バラードは、リリースのときから忘れられない曲ではあったものの、いま振り返るとより一層その痛みが強烈に感じられる。「誰かお願い ぼくを抱きしめて この世には疲れ果ててしまったんだ/誰か僕をぬぐって 涙でずぶぬれなんだ/誰か僕が苦しんでることに気づいて/情けない僕を認めてよ」
胸を締めつけるような歌詞を深く魅惑的な声で歌うジョンヒョンは、震えるようなビートやディストーションのかかった弦、きしむようなシンセに乗せて、その豊かなヴォーカル能力をすみずみまで発揮し、オートチューン処理されたベルト[※サビ部分のエフェクトがかかった中高音]でドラマチックに吠えたかと思えば、つんざくような高音を響かせる。この曲は、ヘヴィな瞬間のあいだに優しいピアノ主導のメロディと滑らかなヴォーカルを挟み、ダイナミックな要素と柔らかな要素とを行き来する。まるで、聴く者に、トラックの先に待っている強烈な感情への心構えをさせるかのように。
++++++++++以上+++++++++++
アジアではもう12/18ですね。この日をどう過ごしていいかわからなくて途方に暮れています。涙がうまく出なくて。とりあえずニュースを。
12/17 COEXで開催されたピチナ財団の芸術祭にメンバーが参加したというニュースを見ました。出席できないオニュさんの代わりにオニュさんのご両親がいらしたとか。やっぱりいっしょにいてくれるのを見ると心強く感じます。
それから上の記事にも紹介されていたIUさん。デビュー10周年ツアーの、12/15シンガポール公演で「憂鬱時計」を歌ったそう。「次の曲は実はセットリストにない曲です。すごく会いたい人のために歌います」と言って、ペンライトを SHINee カラーに変えてくれるようファンに頼んだ、と。
iu sang gloomy clock at her concert in sg today which wasn't on setlist and said it was dedicated for someone who she misses alot. she even changed the microphone colour to pearl aqua. gloomy clock is jonghyun's self-written song which also featured her 💙pic.twitter.com/GYfzpYGqx5
— ❅ (@winterjonghyun) December 15, 2018
キーさん、日付が変わってからのポスト。後ろにジョンくんがいますね。
公式には、忘れないよ、ずっと愛し続けます、と。
キーくんの "This Life" に「香りが消えないうちに旅立つよ」っていう歌詞があって、オニュさんの "通りごとに(Your Scent)" に「冷たい風に 君の香りが舞って」って一節があって、みんな同じこと考えてるのかなってぼんやり思っていました。考えすぎかな。
ありがとう。忘れない。ずっと好きです。
*1:「エレベーター」制作の背景についてはここに少し情報があります。2019/1/14 追記:このときの動画<月刊ライブコネクション>が視聴できます。
*2:She Is のクレジットを読んでいたら、"She Is" の作家陣のなかに Crush さんがいることが分かりました。